第2章 プロローグ
— プロローグ —
もしも誰かから、あなたの職業は何ですか?そう質問されれば、私はこう答える他ない。
“ 引きこもりニートです ”
と。
いや、少し弁明させて欲しい。なにも、この怠惰な生活をずっと送っていたわけではない。
もしも先ほどの質問を、半年前にされていたならば答えるは変わる。
半年前に職業を訊かれたなら、私は100万ドルの笑顔を惜しみなく浮かべ、こう答える。
“ アイドルです ”
そう。私は、訳あってアイドルを辞めた身だ。とは言っても、アイドルだった期間はたったの1日。
記念すべきデビューライブの直後、喉に違和感を覚え医者に罹った。すると彼はこう告げた。痙攣性発声障害だ、と。
本来、人の命を救う立場である医者が、白衣を着た死神に見えたのは言うまでもない。
それなりに才能もあり、それなりではない努力を積んできたつもりだ。自分を過大評価するつもりはないが、周りも私のデビューを待ち望んでくれていた。
しかしそんなこと御構い無し。神様は、アイドルとしての私の命を刈り取ったのだった。
当時は、それはそれは荒れた。タフだと思っていた心は容易くささくれ、飲食を受け付けなくなった体はボロボロ。
それでも、半年という月日は私を多少は癒したのだった。だから、私はなんとか生きている。
部屋で転がり、天井をただ見つめる日々。そんな状態だが、なんとか今日を生きている。
そんな、もはや人の営みを放棄した私の元に、ある日知人が訪れた。その知人は言った。仕事を紹介してやると。私に、人に戻れと。その為には働けと。
体も心もぐちゃぐちゃだった私だったが、その正論パンチは効いた。