第10章 肉球
私は一度本庁に戻り、ウィッグや眼鏡をとって着替えた。
そして降谷さんの家の合鍵…
いや、なんか合鍵って響きが許せない。
そんな…ど、同棲やら恋人を連想させる。
これは合鍵なんかじゃない。
これはそう。ーー…スペアキーだ。
私は降谷さんの家のスペアキーをもって本庁を出た。
ラフな格好で犬の毛がついてもいいように。
いつものごとく音を立てないようにカギを回し、さっと家に入った。
キャン!!
「ひっ。」
私に気付いた犬がすかさず駆け寄ってきて、私は玄関のドアに背中を押しつけた。
お願いだから飛びかからないで欲しい。
「高橋にさせてよ…。」
いや、あいつ張り込み中か。
ふぅと息をつき、私は犬を踏まないようそっと歩いて部屋に入った。
その間も犬ころは嬉しそうに足元で飛び跳ねていた。
「もうー…踏みつけそうだから部屋の端でお座りしてて欲しい。あ。そうだ。」
私は犬の餌が入った袋を持ったまま足元の犬をじっと見た。
「犬!おすわり!」
「きゃん!」
座らない。ずっと飛び跳ねてる。
「いうこと聞かないじゃん。でも、降谷さんのいうことは聞いてたよなー。」
こういう、人を見て態度を変えるところも嫌いだ。
私はエサの容器をサッと洗い、新しく餌を入れ、水入れには水を入れ替えた。
「待て。」
私の方を見てわふっ!と言って、エサを食べ始めた。
“待て”も聞いてくれない。
「くっ、ご主人様に似てるんじゃない!?」
わたしの意見なんて聞いたことない!いや、上司に意見なんてしたことないけど。
ふがふがと餌を食べる犬を上から見つめた。
ーー…白くてふわふわで可愛いとは思うんだけど。
『散歩まではしなくていい』
と、降谷さんは言っていた。
この後ちょっと外に出てトイレをさせるつもりだったけど…。
降谷さんは夜遅くに帰ってきて散歩に連れていくつもりなのだろうか。
「犬。ーー…散歩いく?」
「わんっ!!」
明らかに目を輝かせ私を見た。
「ご主人様の美味しいカフェオレのお礼だよ。」