第9章 笑顔の意味
あれから1か月、たまに本庁にくるものの、降谷さんと会うことはほとんどなかった。
もちろん仕事の連絡はあるし、たまーーーに犬の餌やりにもいった。
あの犬、未だに私に飛びついてこようとするから困る。
降谷さんが長期で留守をし、風見さんが仕事で行けない時だけ、私がこっそり降谷さんの部屋に入り、餌だけぺっとあげて逃げるように部屋を後にする。
ただそれだけなのに、あの犬ときたら何故が私に尻尾を振る。
飼い主もあのくらい愛想よかったらいいのに。
いや、まて。
愛想いい降谷さんも気持ち悪いからやっぱりいいや。
今日は高橋が2日張り込みをしているので、その差し入れだ。
目が離せないらしい。
対象者の向かいの空き部屋に侵入し、カーテンの隙間から永遠に望遠鏡で覗く高橋にパンやらおにぎりを買って差し入れをしてきたところだ。
ボブのカツラにメガネ。
いつもの変装をして、帰る途中。
前から見慣れた上司。ーー…いや安室さんだ。
上司を見るのは2週間ぶりか。
上司の隣には知ってる女性。彼女は確かポアロの店員の…榎本梓だ。
ここでUターンするのは変だし、電話をするふりをした方がいいのか、いや一度行っただけだ。きっと榎本さんは私のことなど忘れているだろう。
そう思い,私は気にせず仕事途中のOLを装い歩いた。
「あれ?もしかして以前ポアロ人来ていただいたパソコンの女性じゃ…?」
「…?」
まさか覚えていたとは。
榎本さんに話しかけられたが、私は何のことだったか、と首を傾げた。
「いきなりごめんなさい。私たちそこの喫茶店の店員の…」
「あぁ、ケーキの美味しかったお店ですね!こんにちは。今日はデートですか?」
今思い出しました、とでも言うように私は言った。
「まさか!違います!」
全力で否定する榎本さんに、安室さんは笑った。
「マスターに頼まれて買い出しに行ってたんですよ。」