第41章 プロポーズ
朝早くから振袖の着付けをしていた。
振袖なんて成人式以来だ。
母に帯を手伝ってもらいながら鏡に映る自分を見つめた。
「めぐみの振袖姿みれて嬉しいわ。」
「華やか過ぎないかな。」
「綺麗よ。」
私の後ろに立ち、帯の形を整える母は、一瞬寂しそうな表情になった。
「…無理してないわよね?」
「何が?」
「嫌な結婚なら断っていいのよ。」
「母さん。…確かに如月さんのことが好きなのかって言われたらまだ好きではない。」
「…。」
「それは当たり前でしょ?そんなに知ってる人じゃないもの。でもね、それ以上に父さんと母さんが大事にしてるここが好きなの。私の帰る場所。この旅館が。」
「ーー…めぐみ。」
「ここを救ってくれる人なら如月さんはきっと良い人だよ。後悔はないし、彼と共に旅館のためにこれから歩む努力をするよ。」
振り返り母に微笑むと、母も優しく笑ってくれた。
「さ。行こう。今日は結納だよ。」
「えぇ。」
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如月さんが婿入りするということで、本来なら夏目家から結納金を準備しなければならないが、旅館を直さなければならないということで、向こう側は準備しなくていいといってくれた。
そうでなくても、お金を騙し取られている私たちからしたら、とても助かる提案だった。
結納も両家の顔合わせと、旅館の一室で食事をする程度だという。
ーー…それならこんな堅苦しい振袖じゃなくても良かったんじゃ?
って、思ったけど、母が私の姿をみて喜んでいるからよしとしよう。
いつも着ている着物より少々重くて暑い振袖をまとい、準備された部屋へと入ると、少し痩せた父がすでに座って待っていた。
「…めぐみ。」
私の姿を見て、嬉しいのか寂しのか、切ない声をあげる父に私はつい小さく笑ってしまった。
「わしのせいで…すまん……。」
「ちょっ、ちょっと!勘違いしないで父さん。本当に嫌なら断るから。如月さんはずっとここで働いてた良い人なんでしょ?」
「あぁ。それは保証する。」
「じゃあ、もう本当に気にしないで。私は自分から彼と結婚するの。…ね?」
父はグッと歯を食いしばり、ゆっくりと頷いた。