第37章 本音
消えた建築会社は最初から改装費用をとるために父に近づいたのだろう。
会社も何もかも架空。
わかるのは顔だけでぜーんぶ偽物のその建築会社捕まえるなんて不可能だ。
しかも西側の塀やら建物をちょっとだけ解体していったのが腹立つっ!
そのままにしておくわけにもいかないし、だからと言って普通の建築会社に頼むにはお金が足りない…。
「私が如月さんを婿にむかえたら、西側を直してくれるのね。」
「…そうなの。」
「父さんは?」
「めぐみにそこまでしてもらうのは悪いから、お金貯まるまで西側はそのままにするって。」
しょんぼりと肩を落とす母に、騙されて落ち込む父。
警察辞めて、家に帰ってきて正解だったのかもしれない。
「わかった。いいよ。如月さんをお婿さんに迎えればいいのね。」
別に婿に迎えるくらい…。
降谷さんとは別れたし、警察だって辞めた。
父も母も今まで朝から晩まで必死で働き、大切に守ってきたこの旅館を、私の結婚で助けることができるなら別に構わない。
「…めぐみ。いいの?」
「最初は、警察反対してこの旅館手伝えって許嫁勝手に決めた父さんが、今更『めぐみに悪いから…』とか、らしくないんじゃない?如月奏くんとは久しぶりだけど、そんな悪い人じゃないでしょ?」
「すっごくいい青年よ。旅館のバイトの時からよく仕事してくれるのよ。」
『父さんに報告してこなくっちゃ!喜ぶわ!』
と、着物のまま母は跳ねるように部屋から出ていった。
ーー…結婚か。
父に許嫁だって、結婚相手決められた時は無視していたけど、やっぱりどこか意識していて…。
誰かと付き合っても、その許嫁が気になって結婚なんてしないって思ってしまっていた。
降谷さんと付き合う前の人に結婚を前提に…って言われて『結婚するつもりはない』って答えたら、フラれたこともあったなー。
ーー…結婚。
本当に?
頭にチラつくのは怒った顔の降谷さん。
『来るもの拒まずか。もっと異性にきちんとしろ。』
ーー…わかってる。わかってますよ、降谷さん。
母がいなくなった部屋で一人、私はぐっと涙を我慢した。