第4章 苦手でも
ここに来て1か月が過ぎた。
早朝に行けばたまに顔を合わせることはあっても、
「出来たか?」
「まだか?」
「これも頼む。」
「それでよく公安と言えるな。」
くらいで特に会話もない。
お疲れ様ですと返しても、「あぁ。」ぐらいしか言わないし、私の渾身の出来の書類を渡してドヤ顔しても、難しい顔して目を通すだけだ。
「もーちょっとさぁー!『ありがとう』とかさぁー!なんかあんでしょ!」
ダン!とビールジョッキを置いて、ぷはぁと息を吐いた。
今日は高橋と仕事帰りに居酒屋に来ていた。
「飲み過ぎ。」
「だってさ、私の完璧以上の資料をみても、何も言わないし!」
「そうだな。あの人が完璧以上の人だから。」
「…くぅ。」
確かに。
こっちが求めてる以上のことを返してくるし、いつの間にか他の仕事も終わらせてるし、しかも潜入捜査もしてるというじゃないか。
…人間じゃない。
「仕事をちゃんとして褒めてくれってのは違うんじゃない?」
横で一緒にビールを飲む髙橋に言われ、私はテーブルの上のキムチを睨んだ。
「わかってるよ!でもいつか認めてもらいたいっ!」
「…そ。」
「高橋はあの人とどうなの?」
飲み屋で降谷さんの名前を出すわけにもいかず、“あの人”“彼”と言って話をしていた。
「いや、別に普通に上司だよ。尊敬してる。」
「…尊敬?」
魔王のように怖い顔で睨み見下す降谷さんの顔を想像した。
「いや、あの人マジですごいから。めぐみはまだ執務室の中のあの人しか知らないから。」
「まぁ、そうだね。」
「そのうちわかるよ。」
…そのうち。
高橋と居酒屋で上司の愚痴をいいながら、と言っても私が一方的にだが、私はそのうちとはいつだろうかと、思いを馳せた。
「夏目。」
「はい。」
次の日、席で仕事をしていると風見さんが部屋に入ってきて私を呼んだ。
「軽い変装をしてくれ。」
「…?」
「君にポアロに行ってもらいたい。」