第34章 え?暇なの?
光月史郎は、気さくな男だった。身分など関係無く接する彼の周りにはいつもの笑顔が溢れていた。
「花子のじいちゃん、良い奴だったんだなぁ〜!」
「あぁ、武術は点で駄目だったがな。」
「しししっ!花子と一緒だ!」
あいつも弱ぇからなぁと、可笑しそうに笑うルフィに対しヒョウ五郎の表情が暗くなる。おでんが白ひげの船に乗り込んだ時も史郎は察していた様に、彼に着いて行った。
「おでんが帰国した時…史郎の姿は無かった…。」
「どっかで船、降りたのか?」
「いや…。」
ぐっと歯を食い縛り辛そうな表情を浮かべるヒョウ五郎に雷ぞうも顔を顰める何かに耐える様に俯く。
「…史郎の姿が無くても、わし等は何の違和感を感じなかった。」
「…どう言う事だ?」
首を傾げるルフィにヒョウ五郎は自分達の記憶から史郎の存在が消えていた事を語る。
「それから数ヶ月しておでんがわしの所を訪ねてきたんだ。」
ーヒョウ五郎!光月史郎と言う男に覚えはないかっ!?ー
その様な男は知らない。しかし、その名前に何故か懐かしさを覚えたのも事実。悲しそうな顔をするおでんにヒョウ五郎はその男は誰なのか尋ねた。
ー史郎は…わしの大事な弟であり…友だ…。ー
あの時のおでんの顔は嘘を付いている様には見えなかった。そして、おでんの処刑された日、今までの記憶がヒョウ五郎の頭に蘇ってきた。
「史郎は遠い"ニッポン"と言う国から来たらしい。航海の途中で奴は自分の国に帰ったのかと思ったが…。」
「…何でお前等はそいつの事忘れてたんだよ?」
「それは…拙者が説明いたそう。」
流れる涙を拭いヒョウ五郎の話を聞いていた雷ぞうが口を開く。記憶を取り戻したおでんは彼等に史郎の事を話した。
「スカイオルカの重要性は分かっておるか?」
「あぁ…"ラフテル"に辿り着くには花子とコハクがいるんだろ?」
「そうか…その娘も…。」
自分には関係無いと気にする様子のないルフィに一瞬、言葉に詰まらせた雷ぞうは重い口を開く。
「これはおでん様の憶測ではあるが…もし花子殿が"ラフテル"に辿り着いた時…。」
花子はこの世から姿を消し…彼女に関わった者達の記憶から存在が消えてしまう…。