第31章 おかえり…ただいま
花子 side
パタンと閉まる扉の音が聞こえサァ…と全身の血の気が引くのを感じた。えっ?!ロー君、本当に出て行っちゃった?!
(待って待って待って待ってっ?!)
今はまだお昼を少し過ぎたぐらい。お客さんの予定は無いけど、いつ飛び込みで来るか分からない。こんな姿、見られたら…。
(私、明日から痴女扱いされるっ?!)
折角、仕事も見付かったのにまた職を失う!何よりそんな不名誉な称号を残したくないっ!取り敢えず身体を起こそうとするけど、後ろで腕を縛られてるからそれも出来ない。
(くっ…!こんな事なら体感鍛えて置けば良かったっ!)
目と口を塞いでる帯を床に擦り付け解こうとするも下に敷いている着物で滑ってそれも叶わない。どうする事も出来ない状況の私の耳に聞こえるのは外を行き交う人達の楽しそうな声。
(ロー君…早く帰ってきて…!)
人は五感を奪われるとそれを補う為に他の感覚が敏感になる。今の私の頼りは耳だけ。闇に包まれた視界に不安と寂しさが募る。すると、突然ガラッと扉が開く音にビクッと肩が震える。
(嘘っ?!誰か入ってきた?!)
こんな痴態を見られたくなくて玄関の方に背中を向け身体を縮込ませる。ザリザリと地面を踏み締める音からその人物が近付いて来るのが分かる。
(お願い…!見なかった事にしてどっか行ってくれっ!)
そんな私の願いは打ち砕かれ部屋に入ってきた人物は床に上がると曝け出された私の背中をそっと撫で上げた。
「っ!?」
大きく皮の厚い男の人の手。その手は私の背中を撫で回すと肩を掴み私を仰向けにした。グニグニと胸を揉みしだくその手付きに悪寒が走り私は無我夢中で暴れた。
「んー!!」
やだっ…!触らないでっ!そんな抵抗虚しくその人物はバタバタと暴れる足の間に身体を滑り込ませ私の身体を押さえ込む。
「んンッー!?」
揉んでいた胸の中心をちゅうっと吸われた時、髪から香る匂いにピクッと身体が反応する。微かに香る海と消毒の匂い…。
「んーんん…?」
私の反応にその人物はくっと喉を鳴らせ目と口を覆う帯を取り去った。突然、飛び込んだ光に目を瞑りゆっくり開くと、ロー君が柔らかい微笑みで私を見下ろしていた。
「ろーくん…。」
「よく分かったな。」
恐怖と不安から解放された安心から涙を流す私の頭を彼はそっと優しく撫でた。