第12章 *夏祭り 【及川徹】
それから私達はりんご飴の屋台に行った。
「及川君もいる?」
「ううん。大丈夫」
彼がそう言ったので、私はりんご飴を1つ買った。
お金を払おうとしたけれど、私よりも先に及川君に払われてしまった。
「あの、及川君…?」
「ん?」
「お、お金…」
「ん、気にしなくて大丈夫だよ。俺がやりたかっただけだし…りんご飴、ちょっとしたプレゼント。受け取って?」
及川君があまりにも優しく笑ってそう言ったから、私は断れなかった。
渡されたばかりのりんご飴を舐めてみる。
いつもより甘い気がした。
すると、
「やっぱり俺もちょっと欲しくなってきちゃった。一口貰える?」
そう言った及川君を不思議に思いながら、彼にりんご飴を差し出す。
…差し出してから気付いた。
「んー、あまーい!懐かしい味がするなー」
彼と間接キスをしてしまったことに。
彼が視線に気付いてこちらを向く。
「間接キス…ごちそうさま」
そう言って悪戯っ子のように笑った。
「…もしかして、りんご飴いらないって言ったの…わざと?」
「大正ー解!!そ。実はこれが狙いでした♪」
彼は悪びれもせずにそう言った。
普通なら怒るところだが、不思議と怒りが沸いてこない。
それは相手がキミだからかな?