第13章 Happy and Bad Day*
狂おしく重ねられる情欲にヒクつき、桜木に体を預けもたれかかって透子は虚ろな頭で考えていた。
彼が他の女性と────……
実際にそんな所を目にしたら、自分はどうするんだろう。
それを見ていられる………それどころか、正気でいられるのだろうか?────なのに、自分の頭で言い聞かせていただけだ。
静の優しさも狡さも熱っぽい視線も激情も、自分だけのものじゃなきゃ、嫌だ。
彼の髪になんか触れて欲しくない。
そして皆とこのままお別れするのも………本当はたまらなく寂しい。
無意識のうちに透子が口を動かし覚束ない言葉を口に出していた。
「さ、桜木…さん。 私は静さんも皆さんも……大好きです。 助けてくださいますか………?」
桜木が感極まったように透子をぎゅっと抱きしめる。
「も、もちろんです! それにしても透子様は可愛すぎますわ。 そんなに目を潤ませて真っ赤なお顔で」
そこでガチャと扉が開く音がし、着衣の三田村が刷りガラスの隙間から不審そうな顔を覗かせた。
「────いつまで二人で風呂に入ってるのです? いい加減にのぼせませんか」
「あえ? みひゃ…むらさん………?」
「はっ」
桜木が驚いた顔をして自分を見ている────頭がぼうっとして体から力が抜ける………
「と、透子様!?」
のぼせてズルズルとお湯の中に沈んでいく途中。
意識を失う直前に、透子は桜木に図られたことにようやく気付いたのだった。
その日から、桜木には決して逆らってはいけない。
透子の脳と体にそんな不文律がインプットされた。