強くて、脆くて、可愛くて【東リべ夢】〘佐野万次郎夢〙
第5章 弱さも脆さも分け合って
こうやって駄々をこねる所からは、本当に最強の男な部分が微塵も感じられない。
「駄目だよ、万次郎。勉強しろとは言わないけど、せっかく学校に来てるんだから、授業くらい出なきゃ」
「分かった」
珍しくすんなり承諾した万次郎を不思議に思いながらも、私は教室に戻った。
その理由はすぐ分かった。何処から持って来たのか、万次郎は椅子だけを持って私の隣に座る。
一瞬教室がザワつき、先生は固まっている。
「何してるの?」
「授業出てる」
「えっと……ここは万次郎のクラスじゃないでしょ? クラスに帰って授業受け……」
「ヤダ」
「ヤダって……またそうやって……」
呆れている私をよそに、万次郎は「授業には出てるんだから、別にいいじゃん」と、折れるつもりはないらしい。
龍宮寺君から聞いた話では、職員室で“佐野万次郎取扱説明書“が出回っているくらい、彼は扱いの難しい要注意人物とされているらしい。
だから、先生が何も言わず、何事もなかったかのように授業を進めている。
触らぬ神に何とやらだ。
何も言わないのではなく、言えないのだ。
何を言ったところで、万次郎が聞く耳を持つとは思えないから、私も気にするのはやめて授業に意識を向けた。
「……なぁ、つまんねぇ……」
「えぇー……そんな事言われたって困るよ……」
面白い授業ばかりではないから、仕方ない事なのだけど、万次郎の我慢の限界を超えたようだ。
教科書とノートを広げている上に、万次郎が上半身を突っ伏すみたいにして、こちらを見る。
「万次郎、ノート書けない……」
「どっか遊び行こーぜー」
「行きません」
「ちぇ……」
机に頭を置いたまま拗ねる万次郎の髪を軽く撫でると、気持ちよさそうに目を閉じる。
そのまま寝てしまった万次郎を、仕方ないなと苦笑して授業にまた意識を向けた。
異常な状況で終了した授業。万次郎はまだ寝ている。
「さんも、色々大変だね」
「何か、頑張ってね」
クラスメイトに励まされてしまった。
万次郎を起こして、寝ぼけた万次郎をクラスに強制送還する為、手を引いて廊下を歩く。
いまだにまだ視線を浴びるけど、万次郎が有名なのも知っているし、気持ちも分からないでもないから、気にしない事にしている。