第3章 第一話 運命
「もう少しでタタル渓谷だね!」
馬車や村で夜を過ごしながら三人はタタル渓谷へ向かっていた。
そうしてグランコクマを出発してから数日後。
前方に見えてきた渓谷を見ながらシノンが楽しそうに言う。
そんなシノンに、一応漆黒の翼を追ってるのだから注意は怠らないようにとハノンが言った。
「ところで漆黒の翼ってさ、権力者の人ばっかり狙ってるんだよね~?」
それも悪名高い権力者ばかり。
シノンの言葉にハノンはうんと頷いた。
ハノンが感じている事を、シノンも感じているようでうーんと首を傾げている。
盗みは犯罪だ。
けれどその犯罪は悪い人ばかりに行っていることから、ただ単に盗んでいるとは言い切れない。
「ま、それも捕まえて聞けば分かる事かな!」
「そうだね。どちらにしても盗みは犯罪だからね」
そんな二人の様子を、ユキネはただ黙ってじっと見つめていた。
それから程なくして渓谷の入口へ到着した三人。
魔物も出るため、辺りを警戒しながら足を進めていく。
二人を守る身であるユキネが先頭を歩いていると、近くの草がガサガサと揺れた。
三人が戦闘態勢を取るとそこから二匹の猪の魔物が飛び出してくる。
ユキネがシュッと何もないところから大鎌を出現させた。
そのまま大きく振りかざし、二匹の猪に斬撃を食らわせる。
「いつも思うんだけど…ユキネのその鎌はどこから取り出してるの?」
ユキネの斬撃で怯んだ猪に向かって地を蹴ったハノンの細剣がその体を貫く。
その様子を見たもう一体の猪が仲間を傷つけられたせいか怒りながらハノンへ襲いかかった。
しかしその猪がハノンへ届く前にその体を氷の刃が貫いた。
「アイスニードル!!」
右手に本を持ってそう叫んだのはシノンだ。
普段シノンの腰には、右に細剣、左に一冊の本がある。
元々譜術が得意なシノンは本を媒介にして譜術を唱えるのだ。
「相変わらず見事な譜術だね」
「ありがとう!…でユキネ、ハノンの質問の答えは~?」