第2章 プロローグ 亡命
「え、タタル渓谷に!?」
「そう。三人で行ってこいって陛下が」
ハノンの言葉にシノンが嬉しそうに目を輝かせる。
漆黒の翼を追うためにとちゃんと伝えたはずだが、三人で遠出する事が嬉しいようだった。
夕食の準備のために台所へ立っているユキネへシノンが声をかける。
「ユキネ!今の聞いてた!?」
「聞いてたよ。タタル渓谷ね」
完成した夕食をテーブルへと運びながら返事を返すユキネ。
気づいた二人も立ち上がってそれを手伝う。
城で過ごしていた二人は料理が出来ない。
とは言ってもいつまでもこのままじゃとユキネから少しずつ習ってはいるが、まだ不慣れなので料理担当はユキネだ。
その代わりハノンやシノンや掃除や洗濯を担当している。
そうして役割分担をしながら三人で暮らしていた。
席についていただきますと挨拶をし、夕食のビーフシチューを口に運びながらシノンは考える。
「でもタタル渓谷ってシノたちは行ったこと無いし…そもそも遠出も初めてなのに三人だけで大丈夫かな?」
「それについては…陛下も言ってたけど、ユキネに任せておけば大丈夫って」
ちらりとハノンが視線を向ければ、ユキネはこくりと頷いた。
昔と変わらず何でも出来るユキネは初めての事でもそつなくこなす。
そんなユキネを見てきているからか、二人もすぐに納得したのだった。
この時の三人には思いもよらなかった。
ただ逃げて生きてきた自分たちがまさか、これから世界の命運をかけた戦いに巻き込まれて行くなど。
―――――運命の歯車は、ゆっくりと回り出したのだ。