第5章 春情【五条視点】★
昨夜、あれだけ乱れていたというのに、今はとても安らかな表情をしている。
その姿があまりにも無防備すぎて、思わずドキッとしてしまう。
僕の手を握って眠るその姿に、
「……可愛いな」
と、僕は起こさないように小声で呟くと、その小さな身体を抱きしめた。
「んんっ……」
どうやら起きてしまったらしい。
腕の中でモゾモゾと動いた後、ゆめがぱっちりと目を開けてこちらを見上げてきた。
「起きた?おはよう、ゆめ」
「……おはようございます」
照れ臭そうに挨拶を返すゆめの頭を優しく何度か撫でているうちに、だんだん眠気が襲ってきてしまった。
僕は微睡みながら、そのまま二度寝しようと目を閉じたのだが、それを察した彼女が慌てて止めに入った。
「ちょっと悟、寝ないで下さい。今日も仕事ありますよね」
「えー、あと5分くらいイイでしょ」
駄々っ子のように甘えてみせると、彼女は困ったような笑みを浮かべながらも、仕方ないなといった様子で言った。
「もう少しだけ、ですからね?」
その言葉を聞いた僕はニヤリとして、「了解」と言うと、彼女を引き寄せて、その柔らかい身体をギュッと強く抱きしめて、好きな人の体温と匂いに浸った。
何気ないやり取りに幸せを感じる。
一筋縄ではいかない困難もあるだろうが、きっとこんな日々がこれからも続いていくんだろうなと思うと、とても心が満たされていくのを感じた。
「ちゃんと起きたら、ゆめは褒めてくれる?」
「悟……いつまでそれやるんですか?」
「僕らに子供が出来るまで?」
「はぁ……今起きたら頭ナデナデとほっぺにキスしてあげますよ」
「起きる」
―――僕たちの幸せな時間はまだまだ始まったばかりだ。
春情 END.
これにて【御当主様は褒められたい】は完結になります。ありがとうございました。
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