第24章 告げる
この人の不安を、全て取り去り消してあげられたら良いのに。
けれど、不安にさせているのが自分なのだとそう思うと、やはりこの目の前で不安に瞳を揺らす傑先輩を、強く抱きしめずにはいられなかった。
いつだって優しくて強くて完璧で、けれど私の前ではゆらゆらと瞳の中を揺らすこの人を…私は…
「傑先輩、キス…して」
「…え」
「傑先輩と、キスしたい」
「…けれど」
多分先輩は、私の気持ちを考えてくれている。だけど私は、傑先輩が不安に思うからそうしたいと思った訳じゃない。もちろん先輩に安心して欲しいという気持ちも大いにあるけれど。傑先輩に触れたいと、今この瞬間、そう思ったんだ。
「傑先輩としたい…今、したいんだよ」
小さく声が震える。自分からこんなことを言う日が来るなんて、思ってすらいなかったから。
少しばかり身体を離した先輩が、困ったようにこちらを見上げている。ゆらゆらと揺れる黄金色の瞳が、真っ直ぐに私を捉えて離さない。
「本当に、良いのかい?」
「うん」
その私の返事を合図に傑先輩は椅子からスッと立ち上がると、見上げていた私を今度はその背の高い身長から見下ろした。
「…エナ」
優しい声だ。心地の良い…傑先輩の声。
その切長な瞳が静かに塞がれるのを合図に、私も瞼をゆっくりと閉じた。