第22章 分からない
「それじゃあ何処に行くか考えておくね」
私の答えを聞いて、そう返してくれた傑先輩。傑先輩に任せれば完璧なデートプランになるに違いない。私との経験値の差など比べ物にならないほどあるだろうから。
そう考えると何故か胸の奥の方がモヤモヤとして、何とも言えない気持ちになる。
「…何か嫌だな」
「うん?」
「傑先輩は他の子とデートしたことがあるのかと思ったら何か…モヤモヤして」
そうポツリと呟く私に傑先輩はピクリと身体を揺らすと、しばらくしてとても優しい声で話し始めた。
「それじゃあ、何処に行くかは一緒に考えようか」
穏やかな声色を乗せて私の耳元へと届いたそれは何処か嬉しそうで、そしていて優し気で、私の腰へと回していた傑先輩の腕にぎゅっと力がこもる。
「うん」
「何処が良いかな、楽しみだね」
「うん、楽しみ」
「大丈夫。私はもうずっと、君のことしか見えていないよ」ポツリと背後から聞こえてきた声は、とても緩やかで心地の良い音だった。
先ほどまで胸にかかっていたモヤのようなものが一瞬にして晴れて行くのが分かる。私を安心させる為に言った言葉なのかと思うと、それすらも温かくて、たまらない気持ちになる。
それにしても、もうずっととは…一体いつからのことを言っているんだろう。でも今はそんなことすらどうでも良いように思えた。
この人は人の心が見えているのではと思うほどに、傑先輩はいつだって相手の欲しい言葉をくれるのだ。私のちっぽけなモヤモヤなど、今はなかったみたいにまっさらに。