第11章 無意識に
え、もしかして硝子先輩は男子寮にいる誰かとお付き合いをしているのだろうか…?そんな考えが頭をよぎるが、その考えは直ぐに硝子先輩の言葉によって消え去った。
「伊地知が昨夜の任務で怪我したから様子見てきたんだよ」
「そう、伊地知は大丈夫なのかい?」
高専に伊地知という苗字は一人しかいない、つまりは一年生の伊地知君のことだろう。
「大丈夫だよ、数日寝てれば良くなる」
「なら良かったよ」
まるで今のこの状況など何でもないみたいに話す二人。動揺しているのは私だけなのだろうか。
「それじゃあ私行くわー」と硝子先輩がヒラリと手を振り歩き出そうとしたところで「硝子」と再び傑先輩が落ち着いた声色で名前を呼んだ。
「分かってるよ、私は何にも見てない」
「助かるよ」
「だってあんたもうずっとご執心じゃん、そんな必死な姿今まで見たことなかったし。私が口出しするようなことじゃないでしょ」
「…そんなに必死に見えるだろうか」
「見えるよ、少なくとも私にはね。でもまぁ良いんじゃない?そういうの大事でしょ、特に…こんな腐りきった業界にいる私達みたいな人間にはさ」
「そうなのかも…しれないね」
「ただ一つだけ、私はどっちの味方にもならないよ」
「あぁ、分かってる」
「可愛い後輩泣かせるようなことはするな。ただそれだけ」