第9章 合同任務
その声がどこか切なく苦し気で…
「君の悟への想いは、ズルくも惨めでもないよ。私には素直で純粋な想いに見える。だから大丈夫だよ、そうやって自分を傷付けようとする必要はない」
「…夏油先輩」
私には、ただの後輩にこんな優しい言葉を言える夏油先輩がズルイとはとても思えなかった。だって、きっと夏油先輩が悩みに悩んで相手を思うが為に決めた道がソレだったというだけだからだ。
この人は人を傷つけない。こんなにも優しい人なんだ、好きな人には尚更だろう。だからきっと夏油先輩の選んだそのズルさは、全部夏油先輩の優しさで、それが最善の策だったのだと思うから。
そんな夏油先輩の優しさを…私はとてもじゃないがズルイとは思えなかった。
恋愛の前では誰しもが自己中心的になりがちだというのに、きっと夏油先輩はそうじゃないから。己の気持ちを押し殺してでも、きっと好きな人の大切なことを優先しているのだろう。
私がどうしようもないほどに五条先輩を好きなように、きっと夏油先輩もその人のことがどうしようもなく好きなのだろう。
その想いはまるで違う形をしていたとしても…結局は、私も夏油先輩もどうしようもないほどに相手が好きで好きでたまらなくて…そして己のズルさですら相手を想う気持ちへと変えてしまうのだから。