第7章 不器用な優しさ
…ずるい?何がずるい?
夏油先輩の顔を見ようとゆっくり視線を上へと上げる。片手で私を抱きしめ、そして反対の手には私が持ってきたトレーを持っている。よく片手で持ってるな、何て考えてしまう。
「ありがとう」
ありがとうはこっちの台詞なのに。
「それに…柊木が無事で本当に良かった」
少しばかり震えるようにして吐き出された言葉は、私をもう一度強く抱きしめた後そっと身体を離した。
私を見下ろす瞳が、少しだけ揺れるようにしてこちらを見つめている。その瞳は何処か少し不安そうで、きっと酷く心配をかけてしまっていたのだと気が付いた。
強くならなくては。仲間を傷付けないためにも。
強くて優しくて、そして温かなこの人に…こんな顔はもうさせたくない。不安そうな眼差しも、震えるような少しだけ小さな声も、夏油先輩には似合わないから。
夏油先輩に抱きしめられていた熱を思い出しながら、私は心の底からそう思った。
もう夏油先輩を悲しませたくはないと。
そう思った。