第2章 Geranium
ローズと名乗る女を家に招き入れ、早1ヶ月が経っていた。
初めこそ警戒していたリヴァイだったが、ローズの作る料理は美味く、繕いものも得意らしい。穴が空き使えなくなった洋服を瞬く間に着られるものにしてしまった。
育ての親を失い、ぽっかりと空いてしまった心の隙間を埋めるようなぬくもりがローズにはあった。
リヴァイがローズのことを信頼し始めていたころ、しかしローズはリヴァイのことを心から信用はしていないらしかった。
リヴァイが話しかけると受け答えはするが、それ以上の会話にならない。向こうから話しかけることもない。
ローズからしてみれば、リヴァイの気が少しでも変わったらまた人さらいに売り飛ばされてしまう可能性もあるのだ。気が休まらないだろう。
もちろんリヴァイにそんなことをする気は毛頭なかったが、すべては口下手のせいだ。ローズとの溝は深いままだった。
(……いや、別に埋める必要はねぇだろう)
ここは地下街。リヴァイは1人で生きてきた。今更ローズと仲良くなる必要なんてないはずだ。
それでもリヴァイがローズと距離を詰めようとしているのは、まだ幼いからだろうか。言葉ではなんとでも言える。だが、心は? 人からの愛を欲しているのでは?
(考えるな)
そんなことを考えたらいつかある別れが辛くなるだけだ。
しかし、リヴァイは気づくとローズへの土産を露店で買っていた。
少しでも警戒を解いてもらおうと散々頭を悩ませ、買ったのは花の図鑑だ。よりによって、と己のチョイスを深く恨んだ。
買わないよりはマシだろうと言い聞かせ、リヴァイはローズの待つ家へ向かった。