第5章 第四話 黒の教団壊滅事件!?
神田も周りも、ユキサの行動に驚きを隠せなかったが、次いで神田の耳元で囁いたユキサの言葉に、神田はビクリと反応を示した。
フ、とそのまま目を閉じて力なく倒れるユキサを、神田は抱き起こす。
「神田…?」
彩音を抱えるリナリーが神田を見たが、神田の表情は影になって見えなかった。
「駄目よ不二!まだ体の痺れが取れていないでしょう!?」
彩音を背に乗せてほしいと頼んだ不二に、リナリーが叫んだ。
危ないから、と言って制している。
「大丈夫、だいぶ強張りは取れてきたし、彩音を運ぶくらいは」
リナリーだって先程目を覚ましたばかりだ。
あまり無理はしない方が良いだろう。
しかしリナリーもふるふると首を振った。
「私が彩音を運ぶから。それに…アレンくんも兄さんに打たれたでしょ?」
よかったら、アレンくんをお願いとリナリーがアレンに視線を向けた。
アレンのまだぎこちない動きに、不二はアレンの元へと向かう。
全然、似ても似つかないはずの弟の面影をアレンに見て、手を伸ばした。
医療フロアのとある一室。
眠り続けるユキサの傍に座っている神田は、ただ黙ってユキサを見つめていた。
普段通りの彼ならば、寝かせたらすぐに立ち去ることだろう。
「お前が…『あの人』なのか」
ポツリと呟いた言葉は、今にも消え入りそうなものだった。
いや、違う、あの人ではない。
時系列が合わなすぎる、ユキサは自分よりも年下だ。
あの研究所は、自分が脱出した時に崩壊してるはず。
だから自分よりあとに生まれる事なんて。
ならば何故、ユキサからあの言葉が出てくるんだ。
虚ろな瞳で囁かれたあの言葉は―――――。
『その蓮の花は、誰のもの?』
ガチャリ、と扉の開閉音がした。
隣の部屋、ユキサの眠っている部屋から、彼が出ていった音だろう。
その音を聞きながら、不二は目の前に眠る彩音を見つめていた。
医療班に詳しく診てもらった所、さすがにコムイも人間に害になるものは作っていなかったのか、彩音もユキサも特に悪い所はないようだった。
起きないのは、イノセンスを強制的に抑え込まれた副作用のようなもの。