第3章 第二話 マテールの亡霊
「よかった、目を覚ましたんですね」
「うん。アレンも無事で良かった」
再会を喜び合う2人をよそに、神田が口を開く。
「…さっきコムイから連絡があった。俺とコイツはこのまま次の任務へ向かう。お前は教団にイノセンスとあいつらを届けろ」
「え、ユキサ行くんですか…?それに神田も酷い怪我だったのに…」
どう見ても全治5ヶ月…と呟くアレンに、俺は治るのが早いんだよと一蹴する。
ユキサの治療で癒やされた分もあるのだろうとアレンはそこまで気にしていなかった。
「…辛いなら、人形を止めてこい。あれはもう、ララじゃないんだ」
「2人の約束なんですよ。…ララを止めるのは、グゾルさんじゃないとだめなんです」
2人の会話を聞きながら、ユキサは目を閉じて歌声に耳を傾ける。
自分はずっとAKUMAと戦闘していたから何も知らなかったが、大まかな話を神田から聞いていた。
「甘いな、お前は。俺たちエクソシストは破壊者であって…救済者じゃないんだぜ」
「分かってますよ、…でも僕は」
アレンがそう言ったところで、大きな風が吹いた。
そして…それまで聴こえていた美しい歌声が、止まった。
ハッと立ち上がり、3人はララの元へと向かう。
グゾルが死んで3日目の夜…ララは止まった。
ララへを近づくアレンを、2人は黙って見ていた。
ありがとう…
壊れるまで歌わせてくれて…
これで、約束が守れたわ…。
ふと、ララの声が聞こえたような気がした。
涙を流すアレンに、神田がどうした、と問いかける。
『それでも僕は、誰かを救える破壊者になりたいです』
涙に濡れた声で言った言葉は、夜空に響いて溶けた―――――。
「それじゃぁユキサ、…と神田。気をつけて行ってきて下さいね」
「アレンも。迷子にならないようにトマさんにちゃんと着いていってね」
アレンはアハハと誤魔化すかのように笑った。
ティムキャンピーとスノーベルも、お互い別れを惜しんでいるように見えた。