第1章 プロローグ 導かれし三人
「それで、私に聞きたい事ってなんですか?」
「AKUMAが現れる場所には、大抵、イノセンスが関わっている事も多い」
それまで黙っていた神田が体を起こし、ユキサへと近づく。
そして六幻を抜き、ユキサの首元へ当てた。
「なっ…!神田様!」
「答えろ。さっきの大鎌はイノセンスだな?適合者か?誰から貰った?それに…」
花、とはなんだ。
言いかけて口を噤んだ神田に、ユキサは首を傾げる。
六幻を向けられているというのに、ユキサは特に気にもせず神田を見つめていた。
神田はユキサが大鎌を持っている所を見ていた。
戦闘後瞬時に何処かへ消えてしまった大鎌だが…。
AKUMAが斬られた時に見えた斬撃は、大鎌から発せられたものだ。
AKUMAを倒せるのは対AKUMA武器のイノセンスだけ。
それも武器となれば、イノセンスを加工して作られ装備型のイノセンスだろうから、教団が関わっているはず。
にも関わらずユキサは教団も、ましてやAKUMAの事も知らなかった。
怪しすぎるユキサに、神田は警戒を解かない。
しかし当の本人は本当に何も知らないようで、神田の態度に少しだけ困っているようだった。
「えっと…ごめんなさい、私にも分からなくて…」
「神田様…」
ユキサが少ししょんぼりしながら答えると、ナギサから静止の声がかかる。
神田は少し間を置いてから舌打ちをして、六幻を納めた。
「私の知っている限りの事は、お話します」
それからユキサが語り始めたのは、神田やナギサにも聞いた事がない、しかし驚くべき事実だった。
まず自分にはこの村へ来る前の記憶がない。
どこで何をしていたのか、誰と一緒にいたのか、どうやってここに来たのか。
覚えていた事は自分の名前だけ。
そうして拾ってくれた村で過ごして5年後、突然不思議な力が覚醒した。
それも神田が見た大鎌の他にもう2つ、能力があるというのだ。
もしそれらもイノセンスだとしたら、今まで複数の所持者はほとんどおらず、ましてやこの年齢で1人で武器として使いこなしている事にも、神田もナギサも複雑な表情をしていた。
それからは町で聞いた通り、AKUMAが村にやってきて村で戦っていたユキサだったが、徐々に自分だけが狙われていると気づき、村の人達を町へ逃したとの事だった。