第3章 第二話 マテールの亡霊
頭の中をぐるぐる回る思考は、ついたわ、と言うララの言葉に中断させられた。
「見ろ、新入りがやつに化けた時のこの姿、服や武器が左右逆になっている」
その前にアレンが戦っていたAKUMAの姿も、よく見たら左右逆になっていた。
しかもそれは中身が空っぽで外見だけのもの。
「ただ単に化ける能力だけじゃない。何かで対象物を写し取っている、というところか」
更に写し取った者の能力も使う事ができる。
厄介なものをAKUMAに取られ、神田はご立腹だ。
アレンを探すべきだった、入れ替わりでもされていたら、と心配するトマに、左右が逆ならば見分けがつくと返した。
そうして2人で部屋から出た、その時である。
「神田殿…!」
呼ばれて、トマの視線を辿るとそこには、左右が逆になったアレンの姿があった。
すらり、と六幻を構える。
「どうやら、どんた馬鹿のようだな…」
「か、んだ…ど…の…」
偽アレンの小さく呟いたその言葉は神田には届かなかった。
「界蟲『一幻』!!!無に還れ!!!!」
大量の蟲が偽アレンを襲う。
が、目を見開いた偽アレンを庇ったのはアレンのイノセンスである左腕だった。
ハッとした神田が見たのは、その壁の隙間から出てくるもう1人のアレン。
「ウォーカー…殿…」
倒れ込んだ偽アレンを、アレンは驚いたように見ていた。
新入り!!と怒鳴り声が背後から聞こえる。
「どういうつもりだ!テメェ…何でAKUMAを庇った!」
「神田…僕の左目が、AKUMAを見分けられるのを知っているでしょう。この人はAKUMAじゃない」
驚く神田をよそに、アレンが偽アレンを抱え起こしていると、壁の隙間からユキサが出てくる。
と同時に、偽アレンを抱えていたアレンが叫んだ。
「そっちのトマがAKUMAだ!神田!!!!」
何!?と振り返った神田は壁へと叩きつけられた。
反動で六幻が神田の背から離れ、地面に突き刺さる。
「テメェ…いつのまに…」
「クックック、オマエと合流してからだよ。黄色いゴーレムを潰した後に、このトマってやつも見つけたのサ!」
コイツなら化けてもバレないと思ってサ。ほら、オマエも気にしていただろう左右逆なのをサ。
アレンの皮はトマに被せておいた。
そう不気味に語るAKUMAが自分の皮を剥いでいく。