第14章 第十三話 白銀の記憶
「うぅ…気持ち悪い…」
日本へと向かう船内でぐったりしながら不二が言った。
大丈夫?と彩音が心配そうに顔を覗き込む。
「バルセロナでボートに乗った時は平気そうだったのにな」
「…あの時は距離もそんなに長くなくてスピードも出ていたから…」
相当弱っているのだろう、普段なら文句など不二の口から出ることは少ないのに。
マリに少し恨めしそうな声音で返事を返した。
「船酔いに効くか分からないけど、ヒールしようか?」
「いやいいよ。いつAKUMAとの戦いになるかわからないし…」
分からないからこそ回復した方がいいのではとユキサは言うが、正直海上では不二はまともに戦えないだろう。
ならばユキサの力の温存を優先した方がいい。
出航前。
ティエドールが少し複雑な表情でユキサと彩音に声をかけた。
「ユキサちゃん、彩音ちゃん、先に行っておくよ。もしも海上でAKUMAに出くわした時は、君たちが鍵になる」
あとマリも、とティエドールは続ける。
近距離を得意とする神田や不二は海上では上手く戦えない。
正直、伯爵に狙われているユキサや彩音に頼る事はしたくないのだが。
「わかりました」
力強い彩音の返事、そしてユキサはこくりと頷いた。
「出航してから3日。AKUMAも現れないし、このまま行けばすぐに日本かなぁ?」
不二の額にのせている手ぬぐいを取り替えながら彩音が言う。
その言葉を聞いて、ユキサが少し考える仕草をした。
「あのね、彩音。ラビから教えてもらったんだけど…」
「ん?」
「そういうの、」
フラグっていうんだって、とユキサが言った瞬間、船が大きく揺れた。
マリが慌てて船室に入ってくる。