第11章 第十話 奇妙な館
「こっちが楽しい旅のお供、不二、彩音ちゃん、マリに、神田と…おや?ユキサちゃん?」
神田の隣りに座っていたユキサは、すやすやと寝息を立てている。
…神田の肩に寄りかかって。
何も言わずに肩を貸してる神田を見て、ティエドールが笑う。
「…なんですか」
「いやいや!なんでもないよ!」
「ユキサ…」
心配そうに彩音がユキサを見つめる。
ユキサを起こさないように、よろしくとアルフォンスが順番に握手をする。
だが神田は手を差し出そうとしなかった。
彼はシャイなんだ、許してくれと言うティエドールに、神田は眉間に皺を寄せていた。
「こんな山奥に来たということは…目的はヤーンの屋敷かい?」
「はい!ご存知ですか?」
ティエドールに聞かれてアルフォンスが答えた。
ヤーンの屋敷とは?とマリが問うと、アルフォンスが少し興奮気味に語り始める。
が、ハッとユキサが眠っているのを思い出して、少し声を抑えた。
「この先の村に、ヤーンというちょっと変わった男が住んでいたんです」
ヤーンは雑貨屋で、毎日賑わっていた。
ところがある日、ヤーンは突然店を閉めてしまった。
ヤーンは財産の全てを注ぎ込んで、自分の手で家を作り始めた。
村の人々はそのうち飽きてやめるだろうと思っていた。
しかしヤーンはやめなかった。
自分の思い描いた家を、ひたすら作り続けていた。
そうして40年の歳月をかけ、屋敷を完成させた。
「それが、ヤーンの屋敷です。僕はこの本を見て、建築家を目指す事に決めたんです」
「凄いね…全部1人でやったなんて…」
どんな家か見てみたい!と言う彩音に、アルフォンスもそうでしょう!と頷いた。
神田はくだらんと言っていたが、聞いてたんだとティエドールに突っ込まれて視線を逸した。
「…悪いですか」
「興味ないのかと思って」
「興味はありません」
神田の言葉に、アルフォンスがヤーンの屋敷について再び話し始める。
熱く語り始めたアルフォンスに神田がユキサを気にしていると、なんだあれは!?と御者の声が聞こえた。
瞬間、神田の隣りにいたユキサがバッと羽を広げて飛び立った。