第11章 第十話 奇妙な館
「おお…!素晴らしい景色だ…!!」
ティエドールの声に、前を歩いていた5人が振り返る。
真っ白な用紙を取り出すと、ティエドールは景色を描き始めた。
そんな時間はありませんと怒る神田を見ながら、彩音と不二が顔を見合わせて小さく笑う。
ティエドールと共に旅をしてまだ数日しか経ってないが、だいたいティエドールの人となりを理解してきたユキサたち。
どこまでもマイペース、かと思いきや周りをよく見ていて核心をついてくる。
つまりなかなかに『食えない』人物なのだ。
ぼーっと遠くを見つめるユキサに、彩音が視線を向けた。
「………」
不二が彩音の肩に手を置き、首を振る。
デイシャが死んでしまってから、ユキサは変わった。
AKUMAが現れれば即座に前線へ出て戦う。
もちろん、自分たちには強化と再生魔法を必ずかける。
無茶な戦い方をしているユキサに、一度不二が注意した事があった。
途中の宿でたまたま各々一人部屋が取れた時。
不二がユキサの部屋を訪れて、ユキサを叱った。
しかし当の本人は首を傾げてこう言ったのだ。
「?無茶はしてないよ。ほら、大きな怪我もしてないでしょう?」
くるりとその場で周って見せて、微笑むユキサ。
AKUMAが多くなってきたから、そう見えただけじゃないかな?と言われて、不二が眉を顰めた。
「…大きな怪我はしていないけど、小さな怪我はしているよね?」
「そんなのはすぐ治るから大丈夫」
「ユキサ!」
ガッと肩を掴んで、ユキサの瞳を見つめる。
悲しそうな不二の表情を見て、ユキサが視線を逸した。
「…。ごめん、でも、本当に無茶はしてないから」
心配はしないで、と不二の手をそっと離してユキサが部屋を出ていった。
それ以来、不二はユキサに何も言えないでいる。