第8章 第七話 終末への幕明け
「そういえば今日、アレンたちが帰ってくるんだったよね?」
シャワーを浴びながらユキサが言った。
ローマからの帰還後、特に新しい任務も入らずここ数週間は教団で過ごす日々。
毎日鍛錬は欠かさず、たまに町へと出てショッピングをしたり。
殺風景だった部屋の模様替えも楽しんでいた。
「そうそう!新しく入団するエクソシストが2人いるらしいね」
きゅ、とシャワーを止め、2人は湯船へと浸かる。
食堂では確か、新入団者のために朝から歓迎パーティーの支度をしていたはずだ。
ユキサと彩音もこの後、その手伝いに向かおうと思っていた所だ。
新しく入団するエクソシスト。
アレンが任務先で適合者を見つけたのだ。
アレンとリナリーが行った、時間が巻き戻る町。
そしてつい先日、クロスを探しに行ったアレンとラビが出会った吸血鬼がいる町。
時間が巻き戻る町にいたイノセンス適合者のミランダという女性は、どうやら教団へ来る途中で迷子になっていたようで。
たまたまアレンとラビがもう1人の適合者、クロウリーと教団へ戻る途中に出会ったそうだ。
そうしてアレンとラビが今日、2人を連れて教団へと帰ってくる。
「詳しくは聞いてないけど、時間を戻せる能力と、AKUMAの血を飲む事で強くなれる能力か…」
「なんだか凄い能力だね~」
ユキサも十分すごいけどねと付け足した彩音に、ユキサは複雑な笑みを浮かべた。
ローマで神田と言い合いになってから、未だに和解できずにいる。
ユキサが何者なのかはっきりしない限り、お互い落ち着かないままだろう。
「…正直、こんな力、私はいらないけどね」
「ユキサ?」
神田の花が見えるのも、治癒能力が高いのも、理由は分からないけど。
それで神田が傷つくのは見たくない。
エクソシストになって皆を救う、その思いは変わらないけれど。
ほんの少しだけ、普通の女の子に憧れる。
ズキリ、と胸の辺りが痛んだ気がした。