第7章 第六話 千年の剣士
何かいい策でも思いついたのか。
神田の真剣な表情を見ながら、不二は言われた通りに下がる。
そこへクラウディアを連れて彩音が駆け寄ってきた。
「調子に乗るなあああ!!」
叫び声が響いた。
同時にビットリオへ走り出す神田へ、大剣が振り下ろされる。
神田は動かず、そのまま大剣を受けた。
神田の左肩に、大きく大剣が沈む。
「神田!!」
「っ…」
焦ったような彩音の声を聞きながら、ユキサが何かに耐えるように口を噛んだ。
よろめきながら、にやりと神田が六幻を構えた。
次の瞬間、六幻がビットリオの腕を切り落とた。
ビットリオの断末魔と、クラウディアの悲鳴が上がる。
膝を付き、神田もその場へ倒れ込んだ。
その場に倒れ込んだ神田へ、ユキサたちが駆け寄る。
クラウディアはビットリオの元へ走っていった。
「…ヒール…」
ふわり、と神田を包み込む暖かな光。
痛みが治まった神田が体を起こした。
ホッと息をつく彩音と不二。
そして青ざめて左肩を押さえているユキサを見た神田は、何か言いかけた所で、クラウディアの声でかき消される。
「ビットリオ!ビットリオ!!」
視線を向けるとそこには、老いていくビットリオと泣きつくクラウディアの姿があった。
「ビットリオ…もう戦わなくていいのよ。一緒に静かな所へいきましょう…」
ゆっくりと目を開けたビットリオは、小さく呟いた。
「あなたが…姫ではないことは分かっていた。あなたは、あなたのために生きるんだ…。…サンドラ姫の、ように…」
「ビットリオ…!」
ビットリオはふわり、とクラウディアに優しい笑みを浮かべた。
そうしてそのまま、動かなくなった。
クラウディアの悲痛の声だけが、辺りに響き渡った。
「クラウディアさん、家を出たんだってね」
「そりゃあ…帰ってもあの父親と婚約者がいる所だもん。私だってあんな家に帰りたくないなー」
教団へ戻る汽車の中で、不二と彩音の会話を聞きながら、ユキサがちらりと神田を見る。
神田は目を閉じて静かに座っているだけだった。
普段なら視線に気づいてこちらを見てくれる青い瞳は、開く事はない。
小さくため息をついたユキサを見て、彩音と不二は顔を見合わせていた。