第1章 1
ドコドコドコドコ.....
おいしそうな匂いがする...
太鼓の音がきこえる...
「僕が夏祭りに行くことになるなんてね...フフ...」
一緒に夏祭りにいく”彼女”のことを思い出して僕は小さく笑った。
僕はまわりを見回して彼女のことを探す。
「こんなに人がひしめき合っていたらゆなちゃんは僕のこと見つけられないかもしれないな。」
____________なんて思いは杞憂だった。
彼女は真っ直ぐこちらに歩いてきた。
綺麗な浴衣にいつもと違う髪型がよく似合っていて今日は一段と綺麗に見えた。
ドコドコドコドコ......
「おまたせ!待たせてごめんね、英智く
ん!」
「大丈夫だよ。でもそうだね、待たされたお詫びに今日は全部のお店をまわりたいな。」
「! もちろんだよ!」
僕はゆなちゃんの手をとってゆっくり歩き出す。
屋台がキラキラと輝いていた。
ドコドコドコドコ....
ドコドコドコドコドコドコドコドコ.....、
「10食くらい買ったけどどれも興味深い味だったね。特にチョコバナナなんてチョコホンデュを野外で売るためにバナナにチョコをつけて固めただけの品物だとおもっていたんだけどね。思いのほかおいしくてびっくりしたよ。あと、ソースがかかった料理がすごく多いね。明日は塩分過多になって顔がパンパンになってしまいそうだよ。フフフ....。ともあれ、そろそろ花火の時間だし行こうか。」
「え?」
僕はゆなちゃんの手をもう一度取ってゆっくり帰り道の方に歩き出す。
「もう帰るの?」
ゆなちゃんは不安そうな顔をして僕を見る。
「フフ... 言ったでしょ?花火を見よう。やっぱり夏祭りの醍醐味といったらこれだよね。」
遠くに黄緑色のふわふわした髪が見えた。
日和くんはどこにいても目立つね...
いつもなら小言の一つや二つ言ってあげるところだけど...
僕は隣で不安げな顔をする彼女をチラ見する。
_______今日は君がいるからね。
そしてまた、日和くんの隣にも彼の好きな人___________
ドコドコドコドコ.....
おいしそうな匂いが遠くなる...
太鼓の音が次第に小さくなる...
________寂しい、と僕は感じていた。