第1章 1
「えっと、じゃぁ、下野さん、僕、適当に話しかけるんで、受け答えよろしお願いしますね。じゃぁ、動画回しまーす」
「はい・・・・」
「ひろくん」
「なにぃ?」
「今日楽しかったね」
「楽しかったね」
「パンケーキ美味しかったね!」
「おいしかったぁ」
「紘にプレゼントあるんだ」
「え、プレゼントくれんの?なになに?」
「これ」
「おぉ、なにこれ、かわいいねぇ」
「私だと思って、大切にしてね」
「うん、わかったぁ」
渡されたクマのぬいぐるみを抱いて、スタッフさんの演技に必死について行きながら、笑いがこみ上げてくる。
なんだこれ。
こんなの本当にみんな見たいか!?
齢42のおじさんだぞ!?
「ねぇ、カメラ撮ってるからって、いつもの喋り方じゃないの、ヤダァ」
は?
「どぉゆぅことぉ?」
だめだ、笑いが堪えきれなくなって来た。
「ちゃんと語尾に出ちゅってつけて」
「(ぶはっ)・・・・」
だめだ、もう、笑い堪えられない・・・
堪えなきゃ、演技しなきゃ・・・
「・・・そうでちゅか?か・・・かわいいでちゅね、これ」
必死で笑いをこらえながら、もとい、笑いながら、注文通りにスタッフさんの演技について行く。
耳がどんどん熱を持って行くのがわかる。
「もふもふ気持ちいね」
「気持ちいいでちゅね」
「私のこと、しゅき?」
「しゅきだよ?」
「しゅき?」
「しゅきでちゅよ」
スタッフさんも笑いだす。
もうだめだ、もう無理。
「ネンネしてる感じに目つぶってくれる?」
「うん」
俺はクマのぬいぐるみを抱いたまま、椅子の背もたれに寄りかかり目を閉じた。
必死にこらえる笑いで、体がプルプルと震える。
「あ、いい、いい、いつもこんな感じだもんね?おやすみ」
「おやすみぃ」
二人して笑いながら、ようやく動画を撮り終えた。
「はい、オッケーでーす」