第1章 1
「下野さん、今度、ゆるふわ夢男子っていうテーマで動画取りますんで。Twitter用の動画です。」
移動中の車の中で、マネージャーに唐突にそう言われたのは何日か前の出来事。
「ゆるふわ夢男子?なにそれ」
もちろん意味がわからずに聞き返したが、返事は返ってこなかった。
もしかしたら、マネージャーくんも詳しい内容な知らないのかもしれない。
アイムの適当さと言うか、マネージャーくんたちの“報連相”の適当さと言うか・・・。
まぁ、多々あることなので、その時はそれほど気にも留めなかった。
そして今日、そのゆるふわ夢男子とやらの動画撮影当日。
今どんなことをするのか、ざっくり説明を受けたところだ。
「えーっと・・・・」
俺は台本らしき紙を見ながら若干熱を持ち出した耳を引っ張った。
なに、これ。
ふわふわのパジャマ着て?
ぬいぐるみを抱いて?
彼女役のスタッフさんが動画を撮る・・・・。
「あ、はい・・・わっかりました・・・?」
よくわかんないけど・・・まぁ、とりあえず、やってみるか。
これでファンが喜んでくれるなら・・・。
俺は言われた通り、用意されたふわふわなパジャマに着替え、メイクをすませ、案内されるまま撮影場所へと移動する。
「その椅子に座ってください。」
スタッフさんに言われるがまま、黒い革張りの椅子に腰を下ろした。
と。
カメラを持った男性スタッフさんが近づいてくる。
「下野さん、よろしくお願いします。」
「ちょっと待って、ちょっと待って!え?相手役って男性なの!?いたでしょ、誰か女性フタッフさん!え?彼女役、なんだよね?それとも俺、彼氏いる設定なの!?」
思わず笑い出しながらも、慌てて突っ込んでみた。
おかしいと思っているのは俺だけなのか、俺のツッコミに『?』顔のスタッフさんに、俺は諦めてもう一度椅子に体を埋めた。
「ちょっと、一つだけ確認させて、彼女役、なんだよね?」
「はい、そうです」
「わっかりました・・・・」
これから繰り広げられるであろう、ヘンテコな小芝居を想像して、また若干耳が熱くなった。