第5章 70年後のキミへ《ブルック》
『またビンクスの酒歌っておくれ。あれ好きなんだよわたし。』
そういいって満月を見上げるリンは一瞬だけ70年前のリンに見えた。
ブルックはアカペラでビンクスの酒を歌う。
『…』
ビンクスの酒を歌えば歌うほど、リンの思い出が鮮明に蘇っていく。
初めてあった日、満月の下で話したあの夜。みんなで寝ている中抜け出して散歩をした日。初めてキスをした日。
『ありがとうね…』
そう呟いたリンはそれから一言も話さなかった。
ブルックは、それでも最後までビンクスの酒を歌い続けた。
どんどん冷たくなっていく体温。先程まで暖かかった手が嘘のように冷たく固くなっていく。
最後まで歌い終わるとブルックは静かに涙を流した。