第7章 寂しさ
「でも、不謹慎かもしれないけど嬉しかったなぁ」
「…え?」
「だって嫉妬してくれたってことでしょ?」
しっと…?嫉妬…その悟の言葉がまるで私の頭の中を駆け巡るみたいに、言葉がぐるぐると何度も往復してくる。
「嫉妬…」
悟を唖然と見上げそう呟けば、その言葉は何故かストンと今まで腑に落ちなかったモヤモヤの正体を解決してみせた。
何故悟が他に好きな人がいたら嫌だと思ったのか。何故他の女性と彼が一緒にいると考えたら嫌だったのか。甘い香水の香りもタバコの匂いも、普段悟から香ってくることのないそれらを嗅いで何とも言えない気持ちになったのか…
そうか、私…どうして気が付かなかったんだろう。
「…嫉妬…してた。悟が他の誰かに取られちゃうんじゃないかって…私、嫉妬してた…」
ポツリポツリと言葉がこぼれ落ちるみたいにそう呟けば、私を抱きしめていた悟は少しだけ身体を離すと、驚いたような表情をしたあと「やばい、嬉しい」と顔を綻ばせ再び抱きしめ耳元で囁いた。
どうして嫉妬したのか…幼なじみの悟を取られるのが嫌だった?それとも婚約者の悟が私以外を見ているのが嫌だった?そんなの正直良く分からない。
それでも、今私に見せてくれているようなこの笑顔を。抱きしめてくれるこの温もりを。私ではない他の誰かに向けられるかと思うと心底嫌だと感じたんだ。
それは自分勝手に不満を撒き散らす子供のような感覚ではなく、彼を取られたくないと駄々をこねる赤子のような気持ちでもない。
まるで心臓が掴まれたみたいに、ぎゅーっと何かによって圧力をかけられたようなそんな感覚。
私は悟の婚約者だし、悟は私の婚約者だという独占欲。