第7章 寂しさ
唇が震える、指先が震える。何故こんなにも悲しい気持ちになるのかも分からない。
だけど、そんな俯く私の頭上から聞こえてきたのは…とても優しく落ち着いた悟の声だった。
「ヒナ、話を聞いて」
「……聞きたく…ない」
「お願い、聞いて」
聞きたく無いのに、悟には好きな人がいてさっきまで他の女性と一緒にいたなんて話聞きたく無いのに。だけど黙りとする私を見て聞いてくれると判断したのか悟はゆっくりと話し始めた。
「僕、他に好きな人なんていないよ。ヒナ以外の女性とも会ってない」
悟のその言葉にピクリと肩を揺らす。
「……だってタバコの匂い」
「それはさっきまで傑と硝子と居酒屋にいたんだ。隣のオヤジが馬鹿みたいにタバコ吸ってた。あ、ヒナ以外の女性と会ってないって言ったけどさすがに硝子はノーカンだよね?僕達お互いを異性と思ったこと一回も無いし。死んでも無いし」
いや、それは限りなく失礼な悪口だ。だけどタバコの原因が分かって少しほっとする半面今度は次の不安が押し寄せてくる。
「じゃあ…甘い香水の匂いは…?」
「香水…?なんだろう…本当に身に覚えないんだけど。あ、もしかしたらタクシー待ってたとき隣の女がすげー香水臭かったからそれかも」