第7章 寂しさ
「悟…さ、もし他に好きな人が出来たなら無理しなくて良いからね…」
それはとても小さな声だったと思う。なんなら情けないほどに震えていたし、馬鹿みたいにか細かったはずだ。
だけど私の言葉に対して悟からの返事はなく、不思議に思った私は恐る恐る背後へと振り返り後悔することとなる。
目の前には悟の驚いた顔。まるで信じられないモノでも見るみたいに、心底驚いたようにして大きく目を見開いている。
そしてやっと言葉を絞り出したのか、「は?」と吐き出されたようにして聞こえて来たその声は恐ろしく低く…私を震わせるには十分だった。
「ごめん聞こえなかった。なんて?もう一回言って」
怖い。どう考えてもいつもの悟とは違う低くてイラ付いたような声。そして何よりもいつも澄んだ空のように綺麗な碧色の瞳は、瞳孔が開き切っていてとてつもなく怒っているということは一目瞭然だった。
どうやら地雷だったらしい。言葉が悪かったか…はたまた言ったタイミングが悪かったか…分からない。
だけど今更引く事なんて出来ない。こんな状態の悟に「やっぱりなんでもないよ!」なんて笑って誤魔化せるわけがないことは20年も幼なじみをしてきたんだから私は嫌と言うほど知っている。
「もし他に好きな人が出来たなら…」そこまで言って、目の前の悟は眉間に深く皺を寄せると私の両手を強く掴み身体の上へと覆いかぶさった。
「あぁ、もう良いよ黙って。僕の聞き間違いじゃなかったね」