第7章 寂しさ
「え…なんで…?」
驚かせようとしたと言う事に関しては、完全に成功だと思った。悟にしては聞いたこともないほど気が抜けたような声をだしていたし、口元は驚いたようにポカーンと開かれていた。あえて言うならば黒の目隠しで瞳が隠れていて表情全部を見ることは出来なかったと言うこと。
「おかえり!悟!」
ビックリとした顔のままリハビングへ入ってきた悟は、私の座るソファーの前で足を止める。
「た…だいま」
まさかここまで驚いた悟を見れるなんて。そんな表情にニコニコとしながら彼を見上げてしばらくしたころ…私はいつもと違う小さな違和感に気が付く。
…悟、何だか煙の匂いがする。いや、これは煙じゃないか。タバコ…?
…何処かに行っていたんだろうか。基本呪術師は廃墟や心霊スポットなど人が普段は寄り付かない所での任務が多い。だからタバコの匂いなどが付くことはほとんどないはずで…もちろんタバコを吸わない悟から匂うのは誰かと一緒にいた証拠だ。
それに、ほんのりとだが甘い香水の匂いもする…悟はこんな甘い香水を付けたりしないし、硝子や傑の香りでもない。
そんな事を頭で考えながら、一つの疑問が頭をよぎる。
もしかして…浮気…?だから私がいきなり帰ってきて驚いていたの?いや、もはや驚いていたわけではなく焦っていたのかもしれない。
でも、そもそも婚約者だといっても政略的な婚約だ。それならば恋愛は個々の自由となるのだろうか。浮気とは言わないのだろうか…?呪術界の良家である家系は妾などがいるのがほとんどだ。ならばこれはなんら間違った考えではない。思い違いでもないのかもしれない。
仲の良い夫婦になりたいと悟は言っていたけれど、浮気が禁止だとも妾を作らないとも言ってはいなかった。
もしも悟に好きな人ができたならば、私達のこの関係はどうなるんだろう。婚約破棄?それとも結婚はして妾を取るのだろうか。
そんな考えが数秒の間にいつくも浮かんでは消えていく。