第6章 僕の可愛い人
『ねぇ、あなたの瞳綺麗ね!!まるで真夏の空を閉じ込めたみたいに綺麗!!』
何度も似たような言葉を言われてきたはずなのに、僕にとっては君に言われたこの言葉だけが特別だった。
いつからだろうか、君を好きになったのは。
気が付けばいつの間にか好きになっていたと言うには曖昧で、だけど決定的な何かがあったかと言われたらそれは分からない。
だけれど初めて出会ったあの日、まるでたっぷりと日差しを浴びた向日葵のようにキラキラと屈託のない笑顔で笑う君を、僕はいつまででも見ていたいとそう思った事だけは覚えている。
女は嫌いだ。媚を売るような態度も、絡み付くような視線も、甘ったるく囁いてくる声も、反吐が出るほどに嫌いだ。欲でまみれたその全てが嫌いだ。
だけれど彼女は違った。いつまでも変わらず無垢なその笑顔を、僕は眩しく思っていたし愛しく思った。
幼なじみとして、いつの間にか時間を共にする事が当たり前になって。彼女の隣に自分がいるのが当たり前で、僕の隣に彼女がいることが当然になった。
だけどそれと同時に、彼女との時間が増えれば増えるほど僕がどれほどヒナに依存しているのかということを嫌というほど感じた。
僕以外を見て欲しくない、僕以外の奴に触れて欲しくない、僕以外に笑顔を向けて欲しくない。
その感情は、気が付けばいつのまにかあたたかな光のような物から、ドロドロとした黒く重たい物になっていた事に気がつく。
あぁ、これが『欲』というものか。それに気がつくまでにそう時間はかからなかった。
あれほどまでに他人の欲に嫌悪感に抱き気持ち悪いと思ったはずなのに、僕はこんなにも簡単に自分の欲を見つけてしまったのだ。