第26章 ナメすぎでしょ
だけれど目の前の、これでもかというほど笑顔で笑う彼女を見て…それがどういう意味なのか心の底から理解出来た。
「本当に君は…僕を何処まで落として行くんだろうね」
甘く柔い沼の底へと落ちていく感覚だ。
普段ならば暗くて深いドロドロとした世界に浸っているというのに。彼女といると、胸が温かくて穏やかな気持ちになれる。
それがどうしようもなく心地良くて…そして幸せだ…
僕の黒く汚れたモノがまるで浄化されていくみたいにクリアになってゆく。きっと自分だけでは無理だった、この汚れた世界で何の荒んだ気持ちなく生きて行くなど。
それでも彼女がいてくれるならば、道に迷ったとしても戻って来れる。彼女の笑顔を見れば…溺れるようなこの黒の世界から這い上がってこれる。
「…悟」
「うん?」
「私の全てをあなたにあげるから、悟の全てを私にちょうだい。不安も辛さも…そんなあなたの全てを愛すから」
不安も恐怖も呪いでさえも…全部全部受け止めてみせるから。
そう呟いたヒナは、優しくゆるりと笑みを作って五条の唇へと穏やかなキスを落とした。
温かで
そして幸福感に包まれるような
そんなキスだった。