第26章 ナメすぎでしょ
拘束されていた腕に力がこもる。溢れ出す呪力を抑える必要もなくただ目の前の男への怒りに静かにそれを放出させた。
すると、バキバキとヒビの入るような音と共に私を拘束していた呪具が外れ床へと音を立て落ちていく。
呪力を吸収してしまう呪具ならば、それ以上に吸収出来ないほどの呪力を一気に流し込めば良い。
良かった、自分の呪力が人よりもはるかに多くて。こんな呪具を壊す事など造作もない。
ゆらりと立ち上がった私を、目の前の男は驚いたように目を見張った後、慌てて何やら指を動かし印を結んだ。
背中に手を持っていき気がつく。
「あぁ、そっか。短刀持ってきてないんだった」
そんな私の声が静かな室内に響いたかと思うと、辺りには暗く澱んだ景色が一気に広がり始める。
目の前の男によって作られた幻の空間だ。
「まぁ良いか、素手で十分だろうし」
いつもよりもはるかに冷めた自分の声。
だけど私にはそんな事、心の底からどうでも良かった。こんな幻術ごときで私をどうにか出来ると思っているのがさぞ可哀想で仕方がないほどだ。
まぁ先ほど気を失ってしまった私が言うのもなんだが…あれは浮かれすぎて物凄く油断していたから仕方なかったとでも言っておこう。
だけど今は、この目の前の男に負ける気など微塵もしない。