第20章 執着
先ほどまで彼女が居たであろう自分の腕の中。
心地がよかった。癒された。温かかった。感じたこともない幸福感と、そして安心感。
それなのに、身体はそれらをどこか覚えているような気がするから不思議だ。
ベッドから起き上がり身支度を終える。玄関前の鏡に映る目隠しをしていない自分を見て感じるのは、いつもよりも顔色が良く、そして疲れが取れているということ。
「…ヒナって、マイナスイオンか何か出てるのかな」
そんな馬鹿みたいな事を呟きながら、うるさく鳴り響くスマホを片手に家を出た。
今日は任務が終わればヒナと買い物だ。そう思うだけで少しばかり足取りが軽くなる。
「さて、さっさとクソみたいな仕事終わらせますか」
陽気に鼻歌なんて歌いながら伊地知の運転する車へと乗り込めば、それはそれは恐ろしい物でも見るかのような顔で伊地知は青ざめていた。
いや、僕だって朝から機嫌良く任務行く日くらいあるよ、まったく。