第19章 大切な記憶
黒く渦巻くような呪力が辺り一面を覆い尽くす。それにぶるりと背筋を震わせれば、傑が優しくポンっと頭へ手を置いた。
それはまるで大丈夫だとでも言っているように、私の心を落ち着かせる。
「悟こそこんなところで何をしているんだい?私かヒナに用事でもあったのか」
そんな傑の言葉に悟は一瞬押し黙ると、重苦しかった呪力がスッと引いていくのがわかった。
「さっきヒナの様子が少し変だったのが気になって来たんだよ。別に傑に会いに来たわけじゃない」
私の様子…?さっきの話の時私の様子がおかしい事に気がついてたんだ。気にかけてくれた事への嬉しさと、全く平静を装えていなかった自分の情け無さに複雑な気持ちになる。
「ふーん、悟が?他の人の様子とか気にするんだ」
「当然でしょ、幼馴染なんだから」
「当然ねぇ。幼馴染だったとしても、君ってそんな他人に干渉するタイプだったけ?私や硝子にはこれっぽっちも興味を示さないじゃないか」
その傑のいつもとは違う煽るような言動に、傑はもしかしたら悟を挑発しているのかもしれないと思った。だっていつもならば、傑からこんな喧嘩を売るようなことは言わないからだ。悟ならまだしも。
もしかしたら、記憶を思い出させるキッカケを作ろうとしているのかもしれないとそう思った。