第19章 大切な記憶
悟の記憶がどれほど欠落しているのかは分からない。悟が私を好きになってから、私を好きだと思う分だけ消えているはずだ。
それはどう考えても、婚約してからの記憶はほとんど無くしているに違いなくて、だって悟は…私が他の人に取られるのが嫌で婚約したと言っていたのだ。それは好きだという行為からきた物なのは間違いなくて…
一緒に住んでから過ごした楽しい時間も、笑い合った日々も、甘い空間も。全部全部忘れて私だけしか覚えていないんだ。
そう思うと、胸がキリキリと痛んで…ただひたすらに虚しくなった。
「そうだ…家、どうしよう」
悟がもし私と一緒に住んでいる事を覚えていないのだとしたら、とても厄介だ。悟の記憶が戻るまで私は高専の寮に住む事は可能だが、なんせ彼の家に私の荷物が全て置いてある。ペアの物だって大量にあるし、悟からしてみれば「何これ?」って感じだろう。
そうなると、誤魔化して一緒に住んでなかったアピールはどう考えても無理だ。何か丁度いい理由を付けて悟と一緒に住んでいたと説明しなくてはいけない。