第14章 見たくない
見つからなければ良かったのに、と思った。
まぁ正面から歩いてくる人にとって、こんな道の真ん中で足を止める私はさぞかし不審で、見ない方が無理だとは思うが。
それでも、何かの奇跡が起きて悟が私に気が付かなければ良いのにと思った。
だけど、そんな私の願いも惜しく、悟はここぞとばかりにサングラス越しの漆黒の瞳を大きく見開きそこで視線を止めた。
隣の女性は、そんな悟には気が付いていないのだろう。未だに楽しそうに悟へと話しかけている。
しかし、そんな彼が驚いたのはほんの一瞬で、すぐさまその視線を元に戻すと…私から目を晒し彼女へと瞳を戻したのだ。
…え?
人混みが私を避けて通り過ぎていく。
そして、それは悟と隣にいる女性も同じだったのか…私と肩が触れ合いそうなほど近くにいるはずなのに…その足は止められる事なく通り過ぎていく。
な…んで…
見つからなければ良いと思ったはずなのに、まさかスルーされるとは思ってもおらず。それどころかまるで何事も無かったかのように無視されるとは微塵も思っていなくて…
すれ違う瞬間に悟から香ってきた女性物の香水に、二人が親密であるこが嫌でも思い知らされた。