第10章 特級呪術師
大きな穴を覗き込むようにして、口をあんぐりと開けている可愛い婚約者を見て思わずにニヤけてしまう。
何その顔、可愛すぎるでしょ。
「え…これ…やりすぎじゃない…?」
思わず小さく絞り出した声に、僕はぶっと吐き出すようにして笑ってしまった。
「ははっ!ヒナすごいドン引きしてるじゃん」
「私はいつだって五条、お前にドン引きだよ」
「別に歌姫には聞いてないしー」
クスクスと笑う僕にゲンナリとした顔を向け、ヒナの隣にいた歌姫は舌打ちを落とすと「ヒナ、一刻も早く婚約を解消した方が良い」なんて余計な事を言ってくる始末だ。
そんなやり取りをしていた僕達の前に
「悟」
あぁ、だよね。やっぱりそうだよね。と思った。
学生時代に何度も聞いたことのある自分の名前を呼ぶこの声は、いつもよりもさらに低く怒りを表しているのが分かる。
「いや〜学長!こんなデカい穴開けられる自慢の教え子がいて鼻が高いでしょ」
「残念な教え子の間違いだろう。大人になってまで説教されたいみたいだな」
「え〜勘弁して下さいよ。少し乱暴めに地球を救っただけでしょう」
そんな僕の悪びれる様子のない姿を見た学長は、額にピキピキと青筋を立てると、強く拳を握り締め僕へとそれを振り下ろした。
もちろん本来ならば無下限で触れることさえ出来ない。だけれど夜蛾学長とは長い付き合いだ。ここで無下限を解かなければ余計に面倒ごとになると判断した僕は、学生時代から何度目になるか分からない拳を受け入れると、頭部に大きなコブを作った。