第3章 婚約者
私は今、信じられないほど着飾った格好で高級そうな料亭の廊下を歩いている。
朝一に、インターフォンの音で起こされたかと思うと、実家のお手伝いさんが数名おしかけてきたのだ。
まずはお風呂に入れられ隅から隅までピカピカにさせられた後、髪は信じられないほどうるつやになって爪の先まで整えられ。
その後は淡いパステルカラーの黄色い着物に着替えさせられたかと思うと、うつるやの髪をアップにして華やかな生花を添えられる。
メイクはナチュラルで清楚感のあるものだがとてつもなく念入りにチェックまでしていて、そこまで気合の入ったお手伝いさん達にお見合いに行きたくないなんて言えるはずもなかった。
婚約破棄したいのに…こんな丁寧にセットされたら文句も言えないよ…
しかもお酒臭い私に気が付いたお手伝いさんの1人がコンビニまで走ってミントの口腔ケア剤まで買ってきてやたらと飲まされたほどだ。
そんなこんなでとりあえずお見合いの席のこの場所に来たのだが、個室に入るとそこにはうちの両親だけでまだ相手方は来ていないようだ。
「あのさ、お見合い相手って誰なの…?」
隣に座る母に小さな声でそう聞けば「あら、言ってなかった?」なんてそんな呑気な声が聞こえてくる。
言ってなかったし、私も聞いてなかった。そう答えようとした時だった。
桜の花びらが書かれた綺麗な襖がスッと開き、人が入って来る気配がした瞬間私はどうしたら良いのか分からず慌てて俯いた。
どうしよう!来ちゃった!