第15章 決別
ー…別人…。
そう、別人であるのなら。
’’私’’を指し示すものはエニシとは違う別人なのだとしたら。
あの時のエニシは影分身や変化の類ではない。
紛れもない本人である事は、会ったイタチ自身が証明できる。
つまりは…。
ー…多重人格か。
行き着いた答えに、漸く腑に落ちた。
エニシはこの事を…。
ー何故、俺に言わないんだ…。
何でも話してほしい、とある種、子供の駄々の様な感情が迫り上がる。
と同時に、隠されていた、打ち明けてもらえなかった、といった物寂しさが染み出すように広がっていく。
「サソリ。…。」
呼びかけたはいいものの、その後の言葉が続かなかった。
サソリは知っている、と予測できるのに、確信を持てないが為に言葉が出てこなかった。
「何だ?」
珍しく振り向いたサソリは、普段と違って不機嫌そうではなく、寧ろこちらの様子を少し窺うような
空気を醸し出していた。
何故か。
もしも、イタチがエニシの多重人格に気づいたかどうかを窺っているのだとすれば…。
イタチは意を決して、口を開いた。
「昨日の晩、エニシと話していたな。」
「さあな…。何の話だ?」
少し、面白そうにこちらを窺う様子に、やはり、と思う。
「惚けても無駄だ。」
イタチはそう言って、翳した右腕に鴉を出現させる。
すると、サソリは小さく舌打ちをして顔を顰めた。
だが、彼が想像しているような精細さは持ち合わせていない。
あくまでも、声音や雰囲気、二人の様子が遠目で見て取れただけのこと。
内容まではよく聞き取れていなかった。
「ふん、目敏いな。で、何を聞きたいんだ?」
「何を話していた?」
彼の性格上、素直に多重人格かどうかを尋ねたところで、はぐらかされる可能性は大いにある。
それよりも、どんな事を話していたかを聞き出すことで、ある程度の推測や確信は得られるだろ
う。