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溺愛巫女は、喰べられたい

第1章 人、ならざるもの


満月の夜が、やってくる。


窓から見える満月が、神々しく闇夜を照らし。
真っ暗な闇の中、ひとりベランダへと足を運んだ。




途端に。




「…………ごめん尊」



背後から荒々しくあたしを抱き寄せる力強い腕。



「収まらない」



荒い息遣い。
余裕のない瞳。
隠す余裕もなく闇夜に照らされる、口から覗く鋭い牙。
「…………うん」
『彼』に身体を預けて。
頭を撫でてやれば。
その頭にはフサフサの柔らかい、耳。



「…………いいよ、狼」




そう、言葉にするより早く。
狼の手があたしの顎を捉え、誘導された先には狼の唇。
忙しなく、狼の舌が入り込んだ。






「………あーあ、盛っちゃって」
「ユーリ」



なんの前触れもなくベランダの手すりへと腰をおろして。
あどけなく笑うその口元に覗く牙。


「…………んぐ」


…………ぃ、っ、た………っ。


一瞬だけ狼から外した視線。
その一瞬でさえ、今の狼には許されない。
腕が引かれて。
身体が反転。
手すりへと身体が押しつけられて。
噛み付くように重なった唇。
文字通り、狼の牙があたしの舌を突き刺したんだ。


「まっ、て狼、それいた…………、んんぅ!!」



激痛に顔をしかめて逃げようとすれば。
後頭部がつかまって逃げられない。
突き刺された舌先から口の中に血の味がひろがって、吐きそうになる。
それでもお構いなしに舌を絡めて唾液を絡めて、狼が狂ったように唇を貪っていく。


「ふ………っ、んん、っ」


駄目だ。
届かない。
今の狼には、きっとなんにも届かない。
狼が悪いわけじゃない。
満月だから。
満月が狼を、こんな風にしちゃうんだ。


狼は。



人じゃ、ない、から。



『人狼』。

フサフサの耳と尻尾。
鋭い牙。
満月の夜。
狼の理性は完全になくなる。
抑える方法はただひとつ。


アドレナリンを、全部出し切ること。


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