第86章 景色は色付いて
シカ「……ずっと」
キリ「!」
ただでさえ、破裂しそうなほどにドキドキしていた心臓は、シカマルの声に一際大きな鼓動を鳴らして、それは全身に響き渡る。
もう、それは痛いくらいに高鳴っていた。
シカ「ずっとってのは?」
キリ「あ……」
それは、キリが好きになったその時について、聞いているのだろう。
キリ「アカデミーの頃から」
本当はもう二年も好意を抱いていた事が露顕して、さらなる羞恥心が重なる。
シカ「言うつもりがなかった理由……聞いてもいいか?」
キリ「私には常に身の危険があった。それは、周囲まで巻き込んでしまうから」
キリ自身、危険に晒され続けていた日常。そして、それは容赦なく、周りにいた人物にも被害を与えた。
そんな中で、誰かと共に生きる決断はとても出来なかったのだと、シカマルに告げる。
シカ(………)
色々と、この急な展開に容量オーバー気味なシカマルも、キリの告げた理由には、そういうことだったのかと腑に落ちる。
キリの性格ならば、そうなっても仕方がない。
きっとキリは差し伸べられた手を、取る事も出来なくて、そこから一人動けずにいたのだろう。
すると、キリは思い切ったように、言葉を口にした。
キリ「……っ、ごめんなさい嘘をついたわ」
シカ「!?」
シカ(嘘? 嘘ってお前……)
一体どれが、嘘だったのだというのだろう。アカデミーの頃から好きだという話だろうか。
それともまさか、好きだと言ってくれたそれの事だろうか。
そうだとしたら、これほどタチの悪過ぎる冗談もないものだが。
シカ(嘘ってなんだよ、どれが嘘だ?)
こっちはこっちで、かなりいっぱいいっぱいで、言葉の真意を汲み取れるほどの余裕はないのだ。
どうかお手柔らかに願いたい。