第86章 景色は色付いて

たくさんのありがとうの他に、伝えなければならないもう一つ。


キリ「今まで本当にごめんなさい」

シカ「？」


その謝罪に心当たりがないのか、シカマルは首を傾げて、その続きを促した。


シカマルの想いに気付かないまま、何度も歩み寄ってくれたシカマルを拒絶した。

そして、好きだと想いを伝えてくれた後だって、キリはその手を取ることはなかった。


キリ「以前、あなたに……異性として見たことはないと言ったわ」


あんなにも、真っ直ぐに伝えてくれた想いに嘘をついて、正直に答えられなくて、ごめんなさい。


ーー今後も男の人として見ることはあり得ない。

自分にそういった気持ちは少しもない。あなたと同じ気持ちで好きにはなれない。

最後には、好きだと言われるのはとても困るのだとーーそんな言葉まで告げてしまった。



シカ「……あー、あれはお前が悪いわけじゃねぇだろ。そりゃ家族みたいに思ってる奴からそう言われりゃ迷惑でも仕方ーー」

キリ「違う……！」


そんなシカマルの言葉を遮って、思わずシカマルの背に伸びた両手は、ぎゅっとその衣服を握る。


キリ「違うの」


キリの鼓動がさらに、その速度を増していくのがわかる。

ドキドキと鳴る胸が、キリの緊張を顕著に表していて、体は熱を帯びてあつい。


勝負を賭けた戦闘中だって、こんなに緊張することはない。

シカマルの隣は、一番心地良い場所なのに、誰といるよりも一番緊張するのもシカマルなのだから、人というのは不思議なものだ。


キリ「っ……」


ドッドッとうるさい心音はもう限界で。

好きだと告げることが、こんなにも勇気がいるものなのだと、その身をもって思い知る。


「もう今更」と言われたら。今はもう同じ気持ちはないのだと、迷惑そうな顔をされたら、どれほど悲しいだろう。


こんなにも、好きな人からの拒絶は怖いものなのだ。

それなのに、変わらぬ態度をとってくれたシカマルには、感謝の気持ちしかない。